「評価制度、作ったんですけどね。1年で誰も見なくなりました」
18年間、人事評価の現場に立ち会ってきて、私はこの言葉を何百回も聞いてきました。前職では執行役員として西日本の立ち上げと評価制度の導入支援を担当し、独立してからも含めて、500社を超える企業の制度づくりに伴走してきました。
その私が、2025年末にコンサルティング事業を終えました。「これから人事評価はますます重要になる」と言われる時代に、なぜ専門家がその看板を下ろしたのか。今日はその理由を、正直にお話しします。
「支援ありきの評価は、いつか止まる」
結論から言います。私がコンサルをやめた理由は、外部依存という構造そのものに限界があると確信したからです。
コンサルタントが入ると、制度は驚くほどきれいに仕上がります。評価軸が整理され、シートが完成し、説明会も滞りなく終わる。ここまでは、どの会社でもうまくいきます。
問題はその後です。半年、1年と経つうちに、制度は少しずつ「形だけ」になっていく。評価の調整が増え、フィードバックが減り、小さな不具合が放置され、現場からは不満だけが漏れてくる。そして誰も、それを直せない。
なぜか。その制度を、自分たちの言葉で作っていないからです。外部が設計した制度は、どれだけ精緻でも「借り物」です。腑に落ちないものは、運用の熱量が続きません。そして不具合が出ても、また外部を呼ぶまで手が出せない。支援が切れた瞬間に、制度は止まります。
これは担当者の怠慢ではありません。構造の問題です。18年・500社かけて、私はその構造から自由になれる方法を、ずっと探していました。
形骸化の正体は、「外部依存」と「完璧主義」
制度が形だけになる原因を、私は2つに整理しています。
ひとつは、いま述べた外部依存。もうひとつが完璧主義です。
最初から100点を目指すと、制度は必ず複雑になります。評価項目を盛り込みすぎ、例外を作り込みすぎ、結果として現場が使いこなせない。立派なマニュアルほど、机の引き出しの奥にしまわれていく。
だから私は、「60点で始めて、80点に育てる」ことをおすすめしてきました。制度は建築物ではなく、生き物です。作って終わりではなく、運用しながら直し続けるもの。ところが——その「直し続ける」ことこそ、外部依存では実現できない部分でした。改善のたびに費用と時間がかかるなら、誰も気軽には直せません。
AIの進化が、前提をひっくり返した
長いあいだ、この矛盾に答えはありませんでした。「内製化すべきだ」と分かっていても、ゼロから制度を設計するのは専門知識のいる重労働で、だからこそ皆さん外部に頼るしかなかったのです。
その前提を、AIが変えました。
いまは、過去の評価シートや経営計画書、組織図といった社内の材料をAIに渡すだけで、評価項目の叩き台が数分で出てきます。成果目標もバリューも、コンピテンシーも、AIが自社の資料を読み込んで案を書く。人が0から生み出すのではなく、AIが出した叩き台を、幹部の会議で磨いていく。
正直に言えば、この叩き台は、かつての私がヒアリングを重ねて作っていたものより、速く、そして遜色ない精度で出てきます。集計や分析にいたっては、人間が何日もかけていた作業が数分です。評価者ごとの甘辛の傾向も、目標の曖昧さも、AIがあっという間に見える化してくれる。
このとき私は、はっきりと悟りました。「制度づくりを代行する仕事」は、もう役割を終える、と。
私が選んだのは、“止まらない仕組み”
では専門家は不要になったのか。私はそうは考えていません。
必要なのは、代行する専門家ではなく、企業が自分たちで回し続けられる仕組みを渡すことだと考え直しました。
- 制度は、AIが出した項目案を「参考に」、自分たちの言葉で決める
- 運用しながら評価会議で課題を出し、分析し、次期制度へ作り直す
- この「構築 → 運用 → 分析 → 再構築」を、外部に頼らず自走で回し続ける
制度を根付かせられるのは、コンサルタントではありません。その組織で毎日働いている人たちだけです。作るプロセスそのものが評価者教育になり、自分たちで直せる制度だけが、進化を続けます。
私がコンサルをやめたのは、人事評価から手を引いたからではありません。「いつか止まる支援」ではなく、「止まらない仕組み」を届ける側に回った——それだけのことです。
完璧な準備はいりません
もし、いまお使いの制度が「作ったのに機能していない」なら、外部にもう一度発注する前に、試してほしいことがあります。
- 過去の評価シートやエクセルを、ひとつのフォルダに集める
- AIに「この資料をもとに評価項目の案を作って」と指示する
- 出てきた叩き台を、幹部の会議に乗せてみる
所要はおよそ15分。特別な準備は要りません。今日机の中に眠っているエクセルが、明日の“制度の種”になります。
外部に依存し続ける評価制度の時代は、静かに終わろうとしています。次に必要なのは、立派な制度そのものではなく、それを自分たちで育て続けられる力です。その一歩を、ぜひ自社の手で踏み出してみてください。
※本コラムは、代表・熊谷が2026年8月のDXPO(東京)セミナー「自社で評価制度構築が完結する Claude Code活用と運用ノウハウ」で語った内容をもとに再構成したものです。
