「AIで何かできませんか」というご相談は、入口の言葉としてはほぼ同じです。ところが実際に着手してみると、やることは会社ごとにまったく違います。

当社が並行して進めている案件を振り返ると、その違いがはっきり出ていました。ある会社では担当者に教えるのが仕事で、ある会社では業務そのものを引き受けるのが仕事で、ある会社では他社が作るシステムに助言するのが仕事でした。同じ「AI導入」という言葉でくくられていますが、契約の形も、成果物も、成否の測り方も別物です。

本記事では、この違いを「3つの型」として整理します。自社がどの型から始めるべきかの判断材料としてお読みください。個別の詳細は、それぞれ別記事にまとめています。

なお、お客様が特定されないよう、企業名・業種・具体的な数値は伏せ、状況の説明にとどめています。

分かれ目は「AIを使えるかどうか」ではない

複数の案件を比べて最初に分かったのは、型を決めるのはAIの難易度ではないということです。

決め手は、その業務をこれから誰が持ち続けるのかでした。

  • 社内に、自分で手を動かす担当者がいる → その人を育てるのが最短
  • 毎日必ず発生する定型業務がある → 外に出して、動き続けさせるのが早い
  • これから外部にシステムを発注する → 発注の前に、要件を固める側に回る

言い換えると、AIの話をする前に、体制の話が先に決まります。ここを飛ばして「まずツールを入れる」と、たいてい途中で止まります。

3つの型を一覧で比べる

① 伴走レクチャー型 ② 実装・運用代行型 ③ アドバイザー型
手を動かし続ける人 社内の担当者 当社 外部の開発会社
向いている状況 すでに自分で触り始めている人がいる 毎日・毎月、必ず発生する定型業務がある これから規模の大きな発注をする
主な成果物 担当者が自作したツール群と、作れる状態 稼働し続ける自動化と、その運用 固まった要件と、動くプロトタイプ
費用の性質 期間で終わる(研修) 続く(月額・運用込み) 案件単位(助言)
うまくいったの判定 本番で回り続けているか 停止せず、担当者の作業が減ったか 発注後の手戻りが出ないか

同じ会社で複数の型が同時に動くこともあります。実際、②のお客様では日次の自動化と月次のレポートという性質の違う2案件が並行しています。

事例①:担当者を育てる

少人数で運営している会社で、担当の方がすでにAIツールを自分で触り始めていました。プログラミングの経験はありませんが、独学で社内向けのツールをいくつか作り上げていた方です。

この状況で「当社が代わりに作ります」と提案するのは、明らかに筋が悪い。すでに走り出している人の足を止めることになります。そこで、定例の場で本人の困りごとを1つずつ外していく形にしました。

結果として、毎日届く定型のメールから必要な情報を抜き出し、共有ファイルへ転記する処理が、決まった時刻に自動で走るところまで来ています。

ただし、ここで見えたのは別の課題でした。作ったツールの多くが、本番で回りきっていないのです。動くところまでは自分で作れる。けれど「動かなかったときに気づけない」ため、怖くて本番に載せられない。研修の本当のゴールは、作れるようになることではありませんでした。

詳細は非エンジニアが自分の業務を自動化できるようになるまでをご覧ください。

事例②:業務ごと引き受ける

複数の拠点を持ち、紙の書類が日常的に発生する会社で、2つの業務を並行して自動化しています。

1つは、紙で回ってくる伝票をAIが読み取り、基幹の管理表へ毎日転記する処理。もう1つは、社内外の複数の書面を突き合わせて、金額や数量にズレのある箇所だけを洗い出す月次のレポートです。

前者は毎日決まった時刻に自動実行され、本番開始から現在まで、システム都合での停止は起きていません。

一方で、この案件で正直にお伝えすべき点があります。削減効果は、まだ発生していません。 現在は自動化と手入力が並走している移行期のため、ご担当者の作業は減っていないのです。効果が出るのは一本化の完了後になります。

そして最大の難所は、AIの読み取り精度ではありませんでした。詳細は紙の伝票をAIが読んで、基幹の管理表に転記するにまとめています。

事例③:発注の前に立つ

自社の管理業務をシステム化し、大手の取引先へ提案したいという会社の案件です。本開発は外部の開発会社が担当し、当社は開発を請け負いません。アドバイザーの立場です。

ここでやったのは、仕様書を書くことではなく、実際に動くプロトタイプを作ることでした。日々の記録、期限の管理、書類の発行まで、ひととおり触れる状態にしています。

これを提案とヒアリングの土台にしたところ、先方からまとまった数の要望が上がってきました。文章の仕様書を回覧していたら、この粒度では出てこなかったはずの内容です。

同時に、線引きも決めています。操作感の作り込みはやりません。本番システムには引き継がれないため、磨いても無駄になるからです。詳細は仕様書ではなく「動く画面」で要件を決めるをご覧ください。

3つの案件に共通していたこと

型はまったく違いますが、共通点が3つありました。

1. 入口は必ず「今ある具体的な1業務」だった

いずれも、全社的なDX計画から始めていません。伝票の転記、メールの転記、日々の点検記録。すでに誰かが毎日やっている作業から入っています。抽象度の高い目標を立てるより、動くものが1つできる方が社内が動きます。

2. 難所はAIの精度ではなく、業務側の段取りだった

伝票の案件で最後まで残った問題は、読み取り精度ではなく「同じ取引を識別する番号が伝票に振られていない」ことでした。レクチャーの案件で詰まったのは、生成の質ではなく「失敗に気づく仕組みがない」ことでした。AIを入れると、それまで人が暗黙に吸収していた業務のあいまいさが、そのまま表に出てきます。

3. 「作れた」と「回り続けている」の間には、大きな距離がある

作ること自体は、以前よりはるかに簡単になりました。難しいのは、それが半年後も動いていることです。当社が運用まで引き受ける契約にしているのは、ここが理由です。

自社はどの型から始めるべきか

以下の順で当てはめてみてください。

社内に、すでに自分でAIツールを触っている人がいますか

いる場合は① 伴走レクチャー型が最短です。ゼロから教えるより、詰まっている箇所を外す方が圧倒的に速く進みます。教える内容も、その人の実際の業務が題材になるため、研修が終わった瞬間に成果物が残ります。

毎日または毎月、必ず発生する定型業務がありますか

ある場合は② 実装・運用代行型が向きます。判断の目安は「同じ作業を月20時間以上やっているか」です。それ未満だと、自動化の構築と運用のコストが上回りやすくなります。

これからシステムを外部に発注する予定がありますか

ある場合は③ アドバイザー型を検討してください。発注前にプロトタイプを作る費用は、発注後に仕様変更で発生する手戻りより安く済みます。

どれにも当てはまらない場合

まずは自社の業務を棚卸しするところからです。当社では、経営会議の資料作成という「毎週必ず発生し、参加者が意思決定者である業務」を入口としてご提案することが多くあります。効果が経営層に直接伝わるためです。

まとめ

  • 中小企業のAI導入は、①担当者を育てる ②業務ごと引き受ける ③発注に助言する の3つの形に整理できる
  • 型を決めるのはAIの難易度ではなく、その業務を誰が持ち続けるのかという体制の問題
  • 共通していたのは、具体的な1業務から入ったこと、難所が業務側の段取りだったこと、そして「作れた」と「回り続けている」の距離が大きいこと

当社では、上記3つの形すべてに対応しています。どの型が自社に合うか判断がつかない段階でのご相談も歓迎です。実際の業務を1つ挙げていただければ、その場で当てはめてお答えできます。